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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)3545号 判決 1972年7月17日

原告

大塚モトエ

外五名

右六名訴訟代理人

山田裕四

被告

相愛交通株式会社

右代表者

本島英吉

被告

遠藤清

右両名訴訟代理人

馬場正夫

武田渉

主文

一  被告らは連帯して原告大塚モトエ、同大塚考一、同大塚京子、同大塚佳子、同大塚久嗣の五名に対し各金二九万九〇〇〇円宛原告大塚貴美枝に対し金七四万三、七〇〇円および右各金員につき昭和四五年九月一三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告らと被告らとの各自の負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

一  被告らは連帯して、原告大塚モトエ、同考一、同京子、同佳子、同久嗣に対し各金一一〇万円宛、原告大塚貴美枝に対し金三五〇万円およびこれらに対する昭和四二年四月一三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宜言を求める。

第二  請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第三  請求の原因

一  (事故の発生)

訴外大塚保(大正四年九月一日生)は、次の交通事故によつて死亡した。

(一)  発生時 昭和四〇年三月二日午後九時三〇分頃

(二)  発生地 東京都目黒区中目黒四の一三六五先交差点

(三)  被告車 普通乗用車(タクシー、品五い一七四〇号)

運転者 被告 遠藤清

(四)  原告車 普通乗用車ダットサン六〇年型。(五ひ〇八六八号)

運転者 訴外 一之瀬静雄

被害者 訴外(同乗中)

(五)  態様 被告車と原告車とが出合頭に衝突し、両車両が破損した。

(六)  訴外保の傷害部位程度

(病名)

左鎖骨骨折、左第二、三、四、五肋骨骨折、第五腰椎圧迫骨折、左胸部、皮下気腫呼吸困難、両側下肢のシビレ、知覚異常で絶対安静を要する重傷を負つた。

(治療)

病院名

期 間

実日数

入通院の別

1

目黒

40. 3. 2~40. 3.27

26

入院

2

金沢整復師

40. 4. 7~40.10.30

153

往診

3

嘉悦

40. 4. 7~40.11.30

60

往診

4

国立大蔵

41.12. 8~42. 2.28

83

入院

5

木下

42. 4.13

1

(七)  結果

右のとおりの加療をし、自宅にても軽快することなく、苦痛になやまされながら、その時々の症状に応じて、それ相当の治療を継続したけれども、昭和四二年四月一三日、脳卒中兼肺水腫・頭部外傷後遺症により、木下病院にて死亡した。

二  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(一)  被告会社は、被告車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告遠藤は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

速度違反、左右の安全不確認、徐行義務違反、安全運転義務違反、交差点先入車妨害等。

三  (損害)

本位的請求(死亡)

(一)  葬儀費等 金二〇万円

原告貴美枝は、訴外保の事故死に伴い、葬儀費その他の費用の出捐を余儀なくされたがその内金二〇万円を請求する。

(二)  訴外保の損害 計金四五〇万円

(1) 逸失利益 金二二五万円

訴外保が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおりの条件であつたので、金二三四〇万円と算出されるけれども、その内金二二五万円を本訴請求する。

(死亡時) 五〇歳

(稼働可能年数) 一三年

(毎年の純利益) 金二四〇万円

(年五分の中間利息の控除) ホフマン式計算。

(2) 慰藉料 金二二五万円

右訴外人の死亡による精神的損害を慰藉すべき額は、次のような諸事情に鑑み金二二五万円が相当である

即ち右訴外人は前記の重傷を負い、約二年間闘病中、苦しみ多大の肉体的精神的苦痛を味い、ついに死亡したのである。

(3) 原告らは右訴外人の相続人の全部である。よつて、相続分に応じ、原告貴美枝はその生存配偶者として、その三分の一に相当する金一五〇万円につき、その余の原告五名は子供として各一五分の二宛に相当する金六〇万円宛につき、右訴外人の賠償請求権を相続した。

(三)  原告ら固有の慰藉料 計金四三〇万円

原告モトエ、同考一、同京子、同佳子、同久嗣はいずれも当時は成年前の生徒または幼児であるが、本件事故により父を失い、その精神的苦痛は甚大であり、原告貴美枝は十数年間の苦楽を共にした妻として、今後の生活不安を考えると夫の死亡は精神的に多大の打撃である。

その精神的損害を慰藉するには、原告モトエ、同考一、同京子、同佳子、同久嗣に対し各金五〇万円宛、原告貴美枝に対し金一八〇万円が相当である。

(四)  以上合計金九〇〇万円を死亡による損害賠償として本位的に本訴請求する。

四  (結論)

被告らに対し、原告モトエ、同考一、同京子、同佳子、同久嗣は各一一〇万円宛、原告貴美枝は金三五〇万円およびこれらに対する死亡の日である昭和四二年四月一三日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  予備的請求(傷害)

仮に訴外保の死亡が本件事故による負傷によるものでなかつた(即ち相当因果関係がなかつた)としても、本件事故により他人の介助を得なければ日常生活すらできない後遺障害等級の第一級に相当する重症患者であり、本件事故により廃人となつた。従つて、死亡による本位的請求が認容されないときは、予備的に負傷した状態で発生した損害を次のとおり請求する。

(一)  治療費 計金七八万一〇一五円

(内訳)

1目黒病院  金一三万五二六〇円

2金沢利三郎  金一五万五〇〇〇円

3大蔵病院  金七万〇五七〇円

4木下病院  金二万五九〇〇円

5堤啓譲  金一六万円

6看護費  金八万四二八五円

(二)  雑費・交通費 計金五〇万円

入院雑費、自宅治療雑費、入院退院交通費として一カ月金二万円宛の二五カ月分を請求する。

(三)  逸失利益 金二三四〇万円

訴外保は本件事故により廃人となり一生就労できなくなつたので、その得べかりし利益は次のとおり算出される。

(死亡時) 五〇歳

(稼働可能年数) 一三年

(毎年の純利益) 金二四〇万円

(年五分の中間利息の控除) ホフマン方式計算。

240万×9,821≒2347万円

(四)  訴外保の慰藉料 計金八〇〇万円

(内訳)

加療期間中の分 金三七五万円

後遺症分    金四二五万円

(五)  原告ら固有の慰藉料 計金一二〇万円

原告ら六名は各金二〇万円宛の固有の慰藉料を請求する。

(六)  弁護士費用 金三〇万円

原告貴美枝は、弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に訴訟委任をし弁護士費用を訴額の一割とする旨の約束をしたので右費用の内金三〇万円を被告らに請求する。

(七)  以上の内(一)から(四)までの損害は訴外保につき発生したもので、原告らは前記のとおりの相続分に応じて相続した。

従つて(一)から(六)まで合計金三四一八万円余になるけれども、その内金九〇〇万円(元本は、いずれも請求の趣旨どおり。)およびこれに対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金を事故発生の翌日たる昭和四〇年三月三日以降支払済みまでの分を予備的に請求する。

第四  被告らの答弁

一  (請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)のうち傷害の部位程度については不知。訴外保が、その主張の日に死亡したことは認める。但し事故と死亡との間に因果関係はない。

第二項中被告会社が被告車の運行供用者であつたこと、被告遠藤が被告車の運転者であつたことは認めるが、その余を否認する。

第三項は不知。

第四項は争う。

第五項は不知。

二(事故態様に関する主張)

(一)  事故態様

(1) 被告車運転の被告遠藤は事故当時(当日は曇天であつた)中目黒の祐天寺方面から目黒区役所方面に至る幅員約8.1米の道路を目黒区役所方面に向つて時速約四〇粁の速さで被告車を運転し、本件事故現場附近に差しかかつた。

そして本件交差点における交差道路即ち原告車が進行してきた道路は車道幅員約六米で、一時停止の標識があり、被告車進行の道路はいうまでもなく優先道路であつた。

(2) 右状況のもとで、被告遠藤は制限速度を保持し、前方左右を注視しながら、右交差点に進入し始めた。その当時左右からの横断車もなく、横断を予測せしめる左右からの横断車のライトも右交差点内には存在しなかつた。そこで被告遠藤は、安全を確認し、更に被告車を進行させ完全に交差点内に進入し終つた直後交差点右側からヘッドライトを消灯したままの訴外一ノ瀬運転の原告車が前記一時停止の標識を無視し、いきなり交差点に進入して来た。

(3) その瞬間、被告遠藤は衝突を回避すべく急ブレーキをかけ、ハンドルを左に切つたが間に合わず、原告車は自車左側前ドアーの辺りから後部に至る部分を被告車前部に擦過衝突させ、よつて、本件事故が発生したものである。

(4) 以上のとおり本件事故は原告車を運転した訴外一ノ瀬の一時停止義務、前方注視義務違反に加えて無灯火という重大な一方的過失により発生したものである。

(二)  免責

従つて被告遠藤には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに原告車の訴外一ノ瀬運転手の過失によるものである。また、被告会社には被告遠藤の選任監督につき全く過失はなかつたし、被告車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたのであるから、被告会社は自賠法三条但書により免責されるべきである。

(三)  過失相殺

仮に被告遠藤に過失ありとするも、左記事実にもとづき過失相殺の主張する。

(1) 訴外保は原告車の所有者であつた。

(2) 更に同人は事故当時訴外一ノ瀬を使用し、その監督者としての地位にあり、その業務のため原告車を運転させていた。

(3) 本件事故は訴外一ノ瀬の一方的ともいえる過失により発生したものである。

(4) 原告らは右過失相殺の対抗をうけて相殺された訴外保の損害賠償請求権のみを相続により承継した。

(5) 以上のとおり事故発生につき原告側の過失が大きく寄与しているので、賠償額算定にあたり、十分斟酌されるべきである。

三(因果関係)

本件事故により訴外保が傷害を受け、二年後に死亡したということであるが、右傷害と死亡の間には因果関係は全くない。

(1) 即ち、訴外保は、右傷害の治療にあたり十分治療するようにとの被告会社の要請にもかかわらず、又、被告会社の病院手配の労にもかかわらず、適切な処置をとらず、入院しても十分な治療を受けなかつたものである。もし同人が当初から通常の治療を受け続けていたならば、死の結果は発生しなかつた筈であり、いわば同人の死は適切な治療を継続しなかつたという同人の不作為により発生したものであり、右傷害が原因ということはできない。

(2) 加えて訴外保は日頃から高血圧という持病があつた。

(3) 仮に被告らに責任ありとするも、本件事故による傷害により通常生ずるであろうところの訴外保の損害についてのみの賠償責任にとどめられるべきである。

四(損害の填補)

原告らは自賠責保険から金一二五万円の支払を受けたので、右額は控除されるべきである。

第五  抗弁事実に対する 認否

事故発生は訴外一ノ瀬の一方的過失によるとの点は否認する。

被告遠藤にも運転上の過失があつた。また、被告らは原告車の運転者の過失を論ずるが、訴外保は、原告車の同乗者にすぎず本件事故についてなんらの過失がないのであるから、過失論議の対象にならない。

理由

一(事故の発生)

(一)  請求原因第一項中(一)(二)(三)(四)(五)の

事実、訴外保が昭和四二年四月十三日死亡した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  同第一項中(六)(傷害の部位程度)、(七)(結果)の各事実は、<証拠>により認められる。

(三)  そこで事故と死亡との因果関係につき検討する。

右各証拠に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。即ち訴外保は、昭和四〇年三月二日、本件事故により左鎖骨々折、第五腰椎圧迫骨折、その他の傷害を受け、呼吸困難を伴い、体温も三八度ないし三九度という重症状を呈して、即日、目黒病院に入院し加療を受けた。しかし、それ相当に快方に向つていたところ、訴外保の強い希望により、全治していないまま、二六日目に、いまだ歩行殆んど不能の状態であつたけれども退院した。その後、同年四月七日以降同年十一月三〇日まで嘉悦医師の往診を受け、更に金沢整復師の併せて往診を受けていた。その病名は高血圧症と腰痛症とであつた。なお嘉悦医師作成の診断書(甲第三号証の五)には「……院ニ於テハ従来カラノ疾病高血圧症及受傷後ノ頭痛、各所神経痛ノ治療ヲ行ヒタルモ経過思ハシカラズ……」と明記されている。

その後昭和四一年十二月八日以降翌四二年二月二八日まで国立大蔵病院に入院治療を受けた。その病名は、くも膜下出血、腎炎、肺結核、頭部外傷後遺症であつた。ここでも、必ずしも快方に向わないこともあり、訴外保側の意向もあつて退院した。

そして昭和四二年四月十三日、病状が危篤状態になつたので、木下病院に入院したけれども、脳卒中兼肺水腫、頭部外傷後遺症により即日死亡した。

なお事故直後から高血圧であつたか否かは、目黒病院からカルテの取寄に応じてもらえないこと、それのみならず、訴外保が国立大蔵病院に入院した際に、大蔵病院側から目黒病院に問い合わせた折りにも「カルテが見当らない」ということで確答が得られなかつた、という事情もあつて、必ずしも判然としない。

以上の認定事実によれば、死因が事故と直接結び付くかということになると疑問である面がある。一応本件事故以前に、高血圧であつたとも推認できるけれども、それ相当に肉体的労働をしており、本件事故で、甚大な傷害を負つたことから稼働不可能に立ち至り、適宜の加療を続けたけれども、遂に死亡したことも事実であつた。なお担当医師は右の因果関係につき、いずれとも確答を避けている。従つて因果関係を肯定するにしても、一〇〇%本件事故が原因であると断定し切れるほどの立証もないので、訴外保の死亡に伴う損害の内七〇%につき本件事故と相当因果関係にある損害として被告側に賠償責任があると解するのを相当とする。

二(責任原因、免責、過失相殺)

(一)  被告会社が被告車の運行供用者であることは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで事故の態様につき検討する。

<証拠>によれば次の事実を認めることができる。

即ち本件事故発生地は、車道幅員六米位の中目黒五丁目方面から油面公園方面に通ずる道路と、幅員八米位の祐天寺方面から目黒区役所方面に通ずる道路とが、ほぼ直角に交わる十字型交差点である。そして人家や樹木により左右の見とおしの悪い交差点である。中目黒五丁目方面から油面公園へ通ずる道路上で、その交差点の手前には一時停止の道路標識が建ててあつた。従つて原告車の運転手一之瀬としては本件交差点に入る前で一旦停車し、かつ、左右の安全を確認して通過すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、中目黒五丁目方面から油面公園方面へ時速四〇粁位で進行して来て或る程度減速したのみで直進通過しようとした。他方、祐天寺方面から目黒区役所方面へ直進する被告車の運転手たる被告遠藤としては、左右の見とおしの悪い本件交差点に入る手前から徐行し、左右の安全を確認して直進通過すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、時速四〇粁位より若干減速した程度で直進した。従つて原告車の左側面と被告車の前部とが出合頭に衝突し、本件事故となつた。この経過の骨子は別紙見取図のとおりである。

なお訴外保は原告車の運行供用者であり、自己の従業員たる訴外一之瀬に運転せしめて、自己が同乗していた間に本件事故となつた。

(三)  右認定事実によれば、原告車と被告車との双方の過失の競合により本件事故が発生したものというべく、損害賠償額の算定にあたり斟酌する過失割合は、原告車側が七〇%被告車側が三〇%と認めるのを相当とする。

(四)  従つて過失相殺は右の限度で認容すべきであり、免責の抗弁は失当として排斥を免かれない。結局、被告会社は自賠法三条により、被告遠藤は民法七〇九条により、連帯して、後記認容総額の三〇%相当額につき損害賠償責任がある。

なお原告側は「訴外保は同乗者であつたから、過失相殺の人的範囲に入らない」旨主張するけれども、右認定の事実からみて右の主張は失当であり、対被告側との関係においては過失相殺の人的範囲に入ると解するのを相当とする。

三(損害)

従つて本位的請求たる死亡による損害につき検討する。

(一)  葬儀費等 金二〇万円

原告貴美枝の本人尋問の結果によれば、訴外保の本件事故死に伴い、葬式およびその後の法要等に原告貴美枝が金五〇万円位の出捐をしたことを認め得る。しかし、原告方の地位、その他の事情を考慮し、被告側に負担せしめる額としては金二〇万円をもつて相当とする。

(二)  逸失利益 金一、一二七万円

<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。即ち訴外保は個人企業として「大塚土木」の名称で、残土の運搬、整地等の請負を、数名の従業員を雇い入れ、数台の貨物自動車を保有して、自ら陣頭指揮して、一応稼働していた。一カ月の平均純益として妻たる原告貴美枝に交付されていた金額は金一五万円位であつて、これにて親子七人の生活をたてていた。

右認定事実によれば、昭和四二年四月十三日死亡した当時、訴外保は五二歳であつたけれども、その職業が右のような実情からみて稼働可能年数を十三年と推認し、本人の生活費の控除として月年五万円と推認するのを相当とする。訴外保の得べかりし利益を年五分の中間利息の控除をライプニッツ方式(法定利率による複利年金現価表)により算出し、かつ、将来の不確定要素を加味して金一、一二七万円と認めるのを相当とする。

(15万−5万)×12月×9,3935

=1127万2200円

<証拠>によれば、訴外保の妻が原告貴美枝であり、その余の五名の原告が訴外保の嫡出子であることが認められる。従つて相続分に応じ、ほぼ三分の一に相当する金三七七万円を原告貴美枝が、その余の五名の原告は、ほぼ一五分の二にに相当する各金一五〇万円宛を相続したものというべきである。

(三)  慰藉料 計金三〇〇万円

前認定の諸事情によれば、原告らの精神的苦痛に対する損害として妻たる原告貴美枝に金一〇〇万円、子たる、その余の原告五名に各金四〇万円宛の慰藉料を相当と認める。

なお、原告側は訴外保の死亡による慰藉料として金二二五万円を請求しているけれども、本件においては、右のとおり原告らに認めた額の中に斟酌してあるので、訴外保固有の慰藉料として、別途に認めないこととする。

(四)  損害の填補 金一〇〇万円

<証拠>によれば、自賠責保険より死亡による保険金一〇〇万円を被害者請求により受領ずみであることが認められる。

なお、その他に治療費分として自賠責保険から出ていることが認められるけれとども、既に実費として支出ずみであるうえに、その他の事情を考慮し本位的請求としては斟酌しないのを相当と解する。

(五)  差引計算 残額計金二〇三万八七〇〇円

以上の認容されるべき総額は金一四四七万円となる。七〇%の過失相殺をした残(即ち三〇%相当額は金四三四万一〇〇〇円となる。更に、事故が死亡に寄与した度合を七〇%と認められる以上、これを剰ずると金三〇三万八七〇〇円となる。これから填補額金一〇〇万円を控除すると残額の合計は二〇三万八七〇〇円となる。この明細は別表のとおりであり、原告貴美枝が金五四万三七〇〇円、その余の原告五分は各金二九万九〇〇〇円となる。

(六)  弁護士費用 金二〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らを代表して、原告貴美枝は原告ら訴訟代理人に本訴の追行を委任し、金三〇万円を支払う旨を約したことが認めらる。しかし右認容額と訴訟の経過からみて被告側に負担せしめる弁護士費用は金二〇万円をもつて相当と認める。

四(結論)

よつて被告らに対し原告貴美枝が金七四万三七〇〇円、その余の原告五名が各金二九万九〇〇〇円宛およびこれらにつき訴状が被告らに送達された翌日たる昭和四五年九月十三日(この点は当裁判所に顕著である。なお、この起算日につき死亡日から請求しているけれども、事故態様が原告車側の過失が大であり、かつ、死因にも疑問があつた点、その他の事情も考慮し、死亡日とするのには被告側に酷と解せられるので、右のとおり、請求が確実な訴状が被告両名に送達された翌日からとした。)以降右各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。(龍前三郎)

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